イギリスの雇用契約・Probation (試用期間) について

日本で新卒で就職した時も雇用契約は結んだはずだが、ほとんど興味がなかったので何が書いてあったかは覚えていない。「就業規則を守ります」というのが趣旨で、詳細については契約書そのものにはほとんど書いてなかったように思う。日本では一回しか就職しなかったし、もう昔の話になるので比較のしようもないが、イギリスでは最近5年間の間に4回転職をしているから雇用契約の実物を見ながら分析ができる。

試用期間(Probation)とは

今回の記事では、雇用契約には通常入っている「試用期間」の項目について見てみる。試用期間は英語では、”Probation”、あるいは”Probational Period”である。これらの単語は、他のコンテキストでもよく耳にする。(犯罪者の)保護観察、執行猶予という意味である。イギリスでの就職・転職においても、仮採用という宙ぶらりんな期間であり、この人がJob Descriptionで記述された業務に向いているかどうかを観察し、見極める期間である。

イギリスでの就職・転職の場合、試用期間 (Probation) は通常3〜6ヶ月であるが、延長もあり得る。この間、会社側は従業員を単に観察するだけでなく、改善すべき点を指摘し、改善できるように支援することが義務付けられている。上司との1対1の定期的な面談は、もちろん試用期間でなくても行われるのが通常であるが、試用期間中は特に入念に行われる。

試用期間 (Probation) 中に解雇される場合

日本では試用期間 (Probation) 中に解雇する場合には、勤務態度が極めて悪かったり、遅刻・欠勤を繰り返したり、履歴に重大な虚偽の事実があったことが発覚したりした場合にのみ認められ、パフォーマンスが悪いとか業務に向いていないという理由では解雇できないようになっている。この点は、Job Description に基づいて採用するイギリスの就職・転職のシステムにおいては、業務への向き不向きは比較的評価がしやすいのではないだろうか。

僕の場合、イギリスに来て最初に就職した会社では、それまで日本の会社でしか働いたことがなかったので、解雇される可能性というものは頭の中に全くなく普通に働いていたが、試用期間 (Probation) が明ける時の上司との面談で「おめでとう!」と割と劇的な感じで言われたので、ああ、そういうことだったんだと初めて認識した。その期間はより頑張った方が良いのだろう。周りを改めて見てみると、試用期間 (Probation) が通らなかったと見えてひっそりと姿を消す新人さんもごく少数だが確かにいる。

試用期間 (Probation) 中に解雇する場合は、通常は即時ではなく、3日間とか1週間とかの短い通知期間 (Notice Period) が決められている。また、これは双方向の取り決めであり、働いてみたけれども期待と違うという場合は従業員側からも短い通知期間で辞めることができる。

試用期間 (Probation) が明けて本採用になった時の変化

試用期間 (Probation) が明けて本採用になると、様々な待遇、特に福利厚生関係が向上するのが常である。何が変化するかは会社によってまちまちであり、例えば、企業年金への入会、プライベート健康保険への加入(イギリスでは国民皆保険のNHSがあるが、それに上乗せしてプライベートの医療保険をかけるケースも多い)、試用期間中は月割り相当の日数しか取れなかった休暇が自由に取れるようになる、一つの会社では給与が見直され少しだけ昇給があった、などである。

雇用に直接関わる条件の変化としては、解雇あるいは辞職の通知期間が延び、辞めさせる、あるいは辞めるハードルが少し高くなるというのが大きい。

もう一つの従業員ステータスの変化

ところで、イギリスでの就職・転職における雇用契約では試用期間 (Probation)は必ずしも必須の項目ではなく、実際僕が経験した会社の中で1社にはこの項目は無かった。この根拠になっているかどうかは不明であるが、イギリスの雇用法では、ほとんどの場合は従業員が不当解雇の訴えを起こす権利を得るためには2年間の継続雇用が必要である。ただし、差別に関係する解雇や、妊娠や出産に関連する解雇の場合は2年間勤務する必要はない。すなわち、2年間は会社側が比較的有利な形で従業員を解雇することができ、解雇しにくくなるためには2年間という期間が必要だということだ。

従って、試用期間 (Probation) が開ける時が一安心するための最初の壁で、もう一安心するための壁は2年間継続して勤務した時にやってくるいうことである。ただし、この2年後の壁の件は、雇用法という上位レベルの話であって、個別の雇用契約には入っていない。

参考文献:

  1. 英国雇用法ハンドブック、日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所(2019年12月)
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