
昨年、2020年の3月に最初のロックダウンが始まり、僕の会社でも政府の奨励に従いほとんどが在宅勤務となった。以来約1年半の間に出社したのは数えるほどしかない。1回目のロックダウンが終了し、新規感染がかなり抑えられた昨年の7月〜8月に平均して週に1日程度。その後、昨年秋から今年の春にかけて2回のロックダウンがあり、2021年7月19日に完全解除となった後、この9月からは2週間に1日程度出社している。
イギリスでの在宅勤務の現状については、イギリス人事教育協会 (Chartered Institute of Personnel and Development (CIPD)) が企業等の調査の結果をもとに、報告書 “Flexible Working: Lessons From The Pandemic” (2021年4月)にまとめたものがある。
在宅勤務は日本においてはパンデミック前はほとんどありえない状況であったのに対し、イギリスでは必要に応じて行われていた。僕が以前勤めていた会社でも、マネジメントの拠点と開発拠点は元々離れたところにあり、プロジェクトの会議は通常はビデオ会議で行われていたこともあり、時々在宅で仕事をしていた。しかし、ロックダウン以降は多くの組織でいやおうなく在宅勤務を行うこととなった。
CIPDの調査報告では、33%の組織が在宅勤務による生産性の向上を報告しているが、一方では23%が生産性が低下したとしている。また、在宅勤務の利点としてもっとも回答が多かったのは、通勤の回避(46%)や労働時間の柔軟化(39%)を通じた従業員の福利厚生の向上である。また、リモートワークをサポートする諸ITツールの導入による従業員間の新たな協力(34%)、ITの能力向上(23%)もメリットとして挙げられている。
一方、課題としては、従業員の孤立(44%)、業務内容が在宅勤務に向いていない(36%)、自宅が在宅勤務に向いていない(31%)という回答のほか、技術面が古かったり不十分だったり、従業員のIT技術に対する知識の不足などが述べられている。また、仕事関連では、従業員間の連携の難しさ(26%)、従業員の取り組み意識の不足(19%)、ラインマネージャの管理能力不足(19%)、従業員のパフォーマンスの管理能力の不足(18%)が挙げられている。
さて、メリット/デメリットに関して、僕自身の仕事に関して振り返ってみよう。まず、一番嬉しいのは通勤の回避である。僕の場合、車で行くと片道1時間前後、電車だと1時間半前後かかっていたので、この時間が節約できるのは非常に大きい。さらに、通勤の場合は、交通渋滞や電車の遅延等を見込んで時間の余裕を持たせなければならないので、通勤自体の時間以上に節約できたのは極めて大きな利点である。
通勤時間が削減できる分、睡眠不足の解消による健康増進はもちろんのこと、副業に割ける時間が増えたこともメリットである。さらに、金銭的に通勤費がかからなくなったというのが非常に助かっている。日本では通勤費は経費として支給されるが、イギリスではそういう慣習はなく自己負担である。しかもガソリン代、電車賃ともに日本より高いので、家計への貢献は非常に大きいものがある。
業務に関しても、利点が多い。僕の今の会社はインターネットで電話サービス等を提供するIT企業なので、ツールや技術に関しては全く問題ない。通勤していた時代も、人々は常に自席にいるわけではないから探し回る必要があったり、3人以上で会話するときは会議室の予約が必要でそれがなかなか取れなくて先延ばしになったり、ということがしばしばあったが、グループチャットやビデオ会議だとそういう問題がないのでコミュニケーションはむしろ向上したと思う。
僕自身にとっては、いいことづくめの在宅勤務であり、同僚に聞いてもだいたい似たようなことを言うから、総じてメリットがデメリットを上回っているのだろう。パンデミックが収束したとしても、全員が毎日会社に出勤してくる状況は今のところ想像しがたい。
最後に、在宅勤務はイギリスでは”Work From Home (WFH)”と呼ばれている。日本では、テレワークあるいはリモートワークと呼ばれているが、これらは和製英語ではなく、ちゃんと通じる。しかしながら、イギリスでは聞いたことがない。”At” ではなく”From”を使うことで家「から」会社の仕事をするというニュアンスが表されて、家で働く自営業とは区別される感覚がある。
また、”Home Working”という言い方もよくされている。Homeworkは宿題であるが、ingをつけると在宅勤務という意味になる。